100万人が暮らすこの島には、もともとPTはハッサンただ1人しかいません。
建物が一新されハード面は改善しましたが、そうすると今度は、じゃあ誰が働くの?という問題がよけい浮き彫りになってきます。
当初から感じていた人手不足は、今でも職場が抱える一番の課題なのです。
理学療法士が増えれば、
・待ち時間の短縮
・より多くの患者診療
・1人にかける診療時間の改善
・入院患者への積極的なリハ
・訪問リハへのPTの参加
・現地PTへの技術移転
いろんな可能性が広がります。
逆を言えば、今の状態ではどれもこれも実現不可能なことばかりなのです。
そもそもムナジモジャ病院にスタッフが集まらないのには理由があって、それは単純に労働条件(特に待遇面)が悪いためです。
本土とは別のザンジバル政府が予算管理をしているのですが、医療分野に限らずもともとの予算が極端に少ない。
加えて病院の経営方針もズサン。
医療費自体は貧困層でも病院に来れるよう低く設定されています。
それはいいんですが、その設定がなんとも適当すぎ。
レントゲン一枚撮るの2000シル。
対して、PTがいくら時間をかけてリハをしても250シル(約20円)ぽっきり…
スタッフの働く意欲もなくなります。
(ちなみに、行き帰りのダラダラ運賃は最低600シル。250シルではソーダ1本買えない)
そして、薬代やベッド代にいたってはタダ
必要でもないのに「クスリはくれないのか」とせがまれるのはそのためです。
このボロ病院のどこにそんな余裕があるのかと、経営陣にはほとほと呆れるしかありません。
間違った診療代設定でスタッフへの待遇が悪化し、結果として医療の質が落ちていることには気付かないのでしょうか。
こんな状態で新しいスタッフを雇うことなんて夢のまた夢…
でもちゃんと現地のPTを確保しないことには自分は所詮タダのマンパワーとして終わってしまう…
そこでいろいろ考えました。
新PTゲットのポイントは2つ
@とにかく就職してもらわなければ始まらない
A就職後もほいほいやめてもらっては困る
試行錯誤のすえひらめいたのが「奨学金」のような形を整えられないかということでした。
それは、国内に1つだけあるPT養成校の学生の中から奨学生を募り、奨学金として3年間の授業料を援助する代わりに卒業後は少なくとも何年、という形でムナジモジャ病院で働いてもらうというもの。
新年度が7月から始まるので、その前に奨学生を探してどうしてこうして、というとこまでハッサンと話してたんですが…
援助に協力してもらえるであろうプロジェクトとしてあらかじめJICAから打診してもらってた「小さなハートプロジェクト」
これは「協力隊を育てる会」が運営するプログラムで、協力隊員の要請に応じ教育環境の改善や保健衛生施設の設置、文化財や環境保全への支援などに対して、広く募金で募った資金をそれぞれの活動のために振り分けて支援するというのが趣旨です。
これに一縷の望みをかけて、にわかにいい返事を期待してたんですが…
フタを開けてみれば結局、奨学金という形での援助はしない、というなんともむげない回答。
援助を必要とする人と援助を申し出る人がそこにもしいるなら、なんでもかんでも型通りのフィルターでふるいにかけなくてもいいじゃないか、と、いかにも日本的な融通の利かなさにやりきれなさを感じます。
「小さなハート」が「心がせまい」で終わってしまわないよう、できるできないの前にせめて現場の声に耳を澄ますくらいの対応をして欲しかったのが本音です。
「小さなハートプロジェクト」も、JICAの活動支援費(機材の購入費など)も、日本大使館で行っている「草の根無償協力」も、結局は井戸作りや学校建設のようにモノとして結果が残せるプロジェクトのほうが援助しやすようで、目に見えて「形」に残らないプランは大きな壁に行く手を阻まれてしまうのが現実なのです。
確かに井戸や学校は必要です。
けど、「必要」という意味ではPTなどの医療行為が必ずしもそれら以下だとは思いません。
それは今回患者という目線でものを見て身に染みるほど感じた一つの事実でもあります。
活動開始からもうすぐ7ヶ月。
やっと見つけたと思ったプランも泡と消え、また振り出しに戻ってしまいました。
配属先が抱える問題点に真正面から直面していながら、現実的な解決策を見出せずマンパワーとしての活動で日々が過ぎ去っていくことに焦りと虚しさを覚え、自分は一体何してるんだろう−と考える機会も増えました。
当の病院スタッフ達はといえば相変わらず危機感を感じている様子もなく、結局自分がアクションを起こさなければ何も始まらないということにいいかげん嫌気もさしてきます。
今の自分はなんだか、1人宙ぶらりんでもがいているちっぽけな存在のようです。