坂は最後の最後まで斜度を緩めない
「キリマンジャロは高山病にさえかからなければ子供でも楽に登れる」
なんて言ったのはどこの誰だろう
次第に大きな岩が目立つようになり、折り返しの幅が短くなっていく
うたた寝を繰り返しているうちに気がつけば闇夜が徐々に白み始めている
マウェンズィのシルエットを浮かび上がらせるかのように東の空が少しずつ明るさを増してゆく
いつのまにかマウェンズィの頂上を見下ろす高さまで登ってきた
視線をルートに戻す
ここで立ち止まるわけにはいかない
ウフルはおろか、岩場を登りきった所のギルマンズポイントにもまだ到達していない
眠気を振り切り、再び足を踏み出す
それから30分ほど登っただろうか
6:15
5685m、ギルマンズポイントに到達
だが着くのがあまりにも遅すぎた
ここからウフルピークまではまだ1時間以上かかる
今のペースでは何時に引き返して来れるか分からないし、そもそも2人がウフルピークまで無事辿り着けるとはガイドは判断しなかったようだ
ガイドは穏やかな口調で言った
「ここまでにしよう」
その場にヨロヨロと腰を下ろす
すぐに瞼が視界を遮る
ペットボトルの水が完全に凍りついてしまうほどの気温だったが、寒さの記憶もほとんど頭に残っていない
もう、意識を保てない
その間にも太陽は暗闇を溶かしてゆく
雲海線で二分される雲と空
その境目から放たれる光が徐々に光量を増す
紺色と金色が混ざり合った不思議な光だ
半年前に浴びた朝日を、またこうして浴びている
これまでの辛さを吹き飛ばす神秘的な瞬間だ
地上で拝む朝日とは確実に違うなにか
冴えない頭でもひしひしと感じる
あの時の眠気は、軽度の意識障害だったのかもしれない
慢性的な酸素不足は、明らかに脳の働きを衰えさせていたと思う
身体は異常な眠気という危険信号を発していた
もう少し早くギルマンズに辿り着けていたらあるいはウフルに・・・
という思いがなかったでもない
だが、ガイドの判断通りあの身体ではやはり無事ウフルに辿り着くことはできなかっただろう
ウフルをゴールとすればギルマンズは道半ば
だが、達成感はほぼ100%に近い
ギルマンズが限界だったのだ
不思議と後悔はない
視界の先にウフルピークが見える
先に行った3人は今ごろあそこで同じ朝日を見ているのだろうか
そう考えながらも、意識は夢の中に入りつつあった
高山病に苦しみながらも一緒にギルマンズの朝日を拝んだおかーにゃ
後で聞いたところ、激しい頭痛に耐えかねその場でハットに引き返そうかと思ったという
メルーを登り切った経験を持ちながら、今回は本気で引き返すことさえ考えたというから本当に辛かったのだと思う
だがガイドはそれを許さなかった
「ここまで来たらもう引き返すことはできないんだ。ギルマンズまで、もう少しだけ一緒に頑張ろう」
そしてギルマンズに辿り着いた
ガイドはギルマンズまで行けると信じたからこそ諦めることを許さなかったし、彼女もそのガイドを信じたからこそこうして成し遂げることができた
ギルマンズの朝日に照らされながらガイドの肩で涙する姿に、胸が熱くなった
登山者と現地スタッフは信頼関係で強く繋がっている
いや、6日間という期間でパーティーは固い信頼関係を作り出す
そしてもちろん、共に頂上を目指した仲間同士も
嘔吐、頭痛、めまい、眠気、むくみ、食欲低下
それぞれが辛い高山病と闘いながら、互いの目で、背中で、そして言葉で励まし合った
到達点はそれぞれ違うが、共に頂上を目指したということの意味は大きい
メルーで感じたことを、今回も思った
もう二度と登るもんか
でも、登ってほんとによかった
ありがとう キリマンジャロ
ありがとう 宇野くん
ありがとう おかーにゃ
ありがとう おさむちゃん
ありがとう ヒデ
ありがとう ミネちゃん
ありがとう 多くの現地スタッフのみんな
だれか一人でも欠けてたら、この貴重な経験はきっとできなかった
ことばではうまく伝えきれないけど、本当に感謝しています
Nashukuru kwa msaada yenu nyote rafiki zangu.
Nimefurahi sana kuwezekana kupanda Kilimanjaro pamoja.
Maarifa haya ni makubwa kabisa kwa mimi.
Sisahau kumbukumbu hili daima kwa hakika na ninaona fahari juu ya niwe rafiki zenu.
Kwa fundi wa wenyeji;
Asanteni sana.
Isipokuwa nyinyi hatukuweza kupatia salama.
Wafurahishe wageni tele, kazi njema.
Kila la heri.